こんにちは。オルかなです。私たちは、既に素晴らしい実践や試みをされている施設の訪問研修を、少しずつさせて頂いています。今後は、こちらでご紹介をしていきます。
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第1回目の報告は、「特別養護老人ホーム ときわの杜」です。
ときわの杜の素晴らしいところは、入居者さんの処方内容について、施設長も現場職員さんも強い関心を持ち、「向精神薬使用者ゼロ」を目指した取り組みをされていることです。
今、ここまで明確に「向精神薬使用者ゼロを目指す」と掲げる高齢者施設は、全国的に見ても、見当たらないのではないでしょうか。今回の報告は、2回にわけてお届けいたします。
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【 この国の「高齢者への多剤処方や向精神薬の乱用」の問題は、深刻な状況です。 】
特に高齢者施設では、介護・看護職員の手薄な体制が日常的であることから、入居者の夜間帯の不眠や、日中も含む徘徊や介護拒否、攻撃性などの状態に対して、睡眠薬や、鎮静化させるための抗精神病薬(統合失調症の薬。高齢者へは適応外処方※①である。特に使われているのがリスパダール液やジプレキサ)、元気がないと判断されれば抗うつ薬などが併用されているという最悪の状況です。
高齢者はただでさえ内科や整形外科などの薬をすでに多く飲んでいることが多く、副作用も出やすい中で、さらに認知症治療薬も含む向精神薬も投与するということは、重篤な健康被害や医原病※②を生み出します。
近年は新聞等のメディアでも、高齢者の多剤処方や自宅での残薬の問題、薬の副作用被害について取り上げられることが増えています。この国の医療費は40兆円を超え、まさに大きな社会問題となっています。
※①使用の認可はされていないが、医師の指示で使用ができる。
※②治療するための医療や薬が引き起こす、別の疾患
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千葉県佐倉市にある、ときわの杜。
特別養護老人ホームとして2011年に設立。
施設長は、奥山裕子さんです。http://www.daisen.or.jp/
こちらでは、入居者さんへの「向精神薬(睡眠剤や抗不安薬・抗精神病薬)の使用ゼロをめざす」という方針を打ち出していて、見学当日(2015年12月)の段階で、100名の入居者のうち、元々向精神薬を服用していた数十名のほとんどの方達は、向精神薬から卒業されたという実績があり、現在も取り組み続け、残り数名だそうです。
医療関係者ではない奥山さんが施設長として薬の問題に斬りこみ、現場職員の意識を変え、減断薬を成し遂げていくまでには、相当の苦悩や試練がありました。
【 まず、飲んでいる薬の多さに驚いた 】
そもそものきっかけは、奥山さんが施設長となり入居者さんの様子や処方を見て、「何でみなさんこんなに薬を飲んでいるの?」という驚きと疑問を持ち、独自に情報を集め勉強を始めたことでした。
独自に学んでいくと、向精神薬の副作用や害の大きさに気づきました。奥山さんが医療従事者や介護職ではなかったことで、その情報をまっすぐに受け取り、これは何とかしなくてはという意識が持てたと思うとのこと。
確かに、職員として教育されていると、自分が学んだことや、当たり前と思っていたことが違うと気づき、考えを変えることはなかなか難しいことです。また、薬のことは医師の仕事だからわからない、関与できない、と考える職員も多いのが現状です。
【 現場職員と対話することを、大切にした 】
そんな中、奥山さんは嘱託医や現場の職員と積極的にコミュニケーションを取りました。職員とは全員個別面談。なぜこの方針なのか、向精神薬の危険性とは何かを、職員ひとりひとりに説明しました。
減断薬をしていくことに不安や反対意見を持つ職員が多く、減薬を開始しても人員体制は変えられない中で、減薬開始後の離脱症状※③や入居者さんの心理的不安に対して、どうやってサポートして行くのか、現場での無理のないやり方を、職員と一緒に考えました。
(後編へ続く)
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※③薬を減らしたり止めたりしていく中で起こる身体的・精神的に不快な症状。身体が薬を減らした状態に戻ろうとして回復していく過程でもあるが、その症状の出方や続く期間は、人により様々である。